ビジョンやミッションと一緒に考えたい言葉「ムーンショット」とは?
「ビジョン」や「ミッション」と関連して押さえておきたい概念「ムーンショット」について解説します。
ムーンショットとは?
「ムーンショット」とは、もともとはジョン・F・ケネディが提唱し、計画から10年以内に実現した月面着陸プロジェクトでした。
“I believe that this nation should commit itself to achieving the goal, before the decade is out, of landing a man on the moon and returning him safely to the Earth”
(Apollo Expeditions to the Moon: Chapter 2 “I Believe We Should Go to the Moon” By ROBERT R. GILRUTH )
現在では、「実現まで労力を要するが、実現すれば世界に大きなインパクトをもたらすことができる目標」として、おもにシリコンバレーのスタートアップなどで使われています。
10年など長期にわたる目標を設定し、多くの資本を使って達成する。
不可能と思われることを時間をかけて実現させる。
「大きなことにあえて取り組む」のが「ムーンショット」です。
Googleの「10%よりも10倍の改善を」という有名な考え方がありますが、これもムーンショットと同じく大きな変化を起こすことを提言しています。
10倍の改善をしようとすると、技術的な変化やロジックだけではどうしても達成が難しくなり、アイディアや困難に立ち向かう心のもちようが必要となってきます。
その挑戦が人をひきつけ、共感する人や協力者を増やすため、より実現へ近づいていくのです。
ムーンショットはいわば10倍以上の1度の改善です。ルーフショットのような10%の改善を100回繰り返すこととは結果が異なります。
ムーンショットに必要な要素
月面着陸プロジェクトのようなムーンショットには、3つの要件があります。
◆Inspire(人をワクワクさせること)
ありがちなものには心を大きく動かされることはありません。
人々がムーンショットを実現した未来を想像したときにワクワクするか、感情に訴えかけられるかがポイントのひとつです。
◆Credible(技術的な信憑性があること)
どんな技術を使えば、また技術面でどんなハードルを越えればムーンショットを実現できるかがわかっていることが2つ目の要件です。
ムーンショットの信憑性が高まります。
◆Imagenative(想像的であること)
ロジックや前例からではない、新しさが感じられる考えであることが3つ目の要素です。
夢想的、ロマンチックなものであるほど、それを実現したときにより大きな進歩が得られます。
企業研究の際、企業や事業のビジョン・ミッションが、上記の要素をどのような点で満たしているか分析しても良いでしょう。
ムーンショットを構想し実現するポイント
「ムーンショット経営」というと経営者や起業家のものであり、個人にはスケールが大きすぎると思われるかもしれません。
しかし個人がビジョンやムーンショットをもつことは、人生をコントロールするために重要です。
関連記事:個人がミッションやビジョンを持つ意味と作り方
ムーンショットを構想し実現するためには、以下のポイントが挙げられます。
◆予算や技術が必要なことを前提としておく
長期的な目標にはそれだけ資本を要します。
お金がかからないサービスを見つけることも必要ですが、それよりも必要なときにお金をどう繰り出すかの前提があると違います。
現在、クラウドファンディングのサービスが充実しています。
ツールには日ごろからアンテナを伸ばしておきましょう。
◆夢想を切り捨てない
10年継続するためには、多数の困難が立ちはだかります。
そもそものモチベーション、他者からの影響、真偽の分からない情報・・・。
ただ一番の困難は、「やはり無理なのかもしれない…」と自らブレーキをかけてしまうことでしょう。
障壁とは案外感情的な問題なのかもしれません。
まとめ
ビジョンとムーンショットには、「どんな将来が見たいのか」「理想的でない現実を将来どう理想的に変えるか」という共通点があります。
ただ、ビジョンやムーンショット自体が優れたものではありませんし、持つだけで変化がもたらされるパワーストーンでもありません。
(以下引用)
芸術家でありマネジメント・コンサルタントでもあるロバート・フリッツは、「ビジョンが何であるかは関係ない。要はビジョンが何をなすかである」と言います。つまり、ビジョンはその言葉が美しいかどうかではなく、そのビジョンを抱いた組織の社員たちが実際どのような行動をとるかで価値が決まるということです。
(小田理一郎『「学習する組織」入門』pp.283-4)
「ムーンショット」などスタートアップで使われる目新しい言葉や、良いと思ったビジョンをそのままのみこむのではなく、自ら咀嚼して解釈したり語ったり、実際に出力ができるでしょうか。
情報を加工しないで鵜呑みにしていては、10%のルーフショット止まりのままでしょう。
参考記事
WIRED – 「10%よりも10倍のムーンショットを」:グーグル X責任者からの提言
HBR – What a Good Moonshot Is Really For by Scott D. Anthony and Mark Johnson
HBR 2019年8月号 『ムーンショット 大いなる挑戦が人を動かす』