経営の神様ドラッカーから学ぶ経営理念、ミッション、ビジョン~『ドラッカー5つの質問』より~
現役で働いている方はもちろん、これから企業に就職する方や起業を志す方が知っておきたい、ドラッカーの思想。
彼の膨大な著作と思考のうち、企業の成功にかかわる「5つの質問」第1の問いと、経営理念・ミッション・ビジョンに関する部分についてまとめました。
■ ドラッカーとは
「マネジメントの父」、「知の巨人」などと呼ばれるドラッカー。ちょっと昔には日本でも『もしドラ』が流行りました。
ファシズムの分析・予言をし、当時のイギリス首相チャーチルに絶賛された初著『経済人の終わり』をはじめ、多くの著作を残しています。
マネジメントの代表的な「コアコンピタンス」(他社に真似できないコアとなる能力)など多くの概念を生んだのもドラッカーです。
現代経営学の分野といえども、仕事全般、働くこと全般のマネジメントとして、働くすべての人がドラッカーを学ぶ価値があります。
■ ドラッカーの5つの質問とは
ドラッカーは、企業の成功には5つの問いが必要だといいます。
「成功を収めている企業は、『われわれの事業は何か』を問い、その問いに対する答えを考え、明確にすることによって成功がもたらされている」(『現代の経営』)
1・われわれのミッションは何か
2・われわれの顧客は誰か
3・顧客にとっての価値は何か
4・われわれの成果は何か
5・われわれの計画は何か
4つの質問で「われわれ」が主語になっていることが特徴的です。
(以下引用)
この問いを怠るときに,直ちに、事業の急速な衰退がやってくる。
今回はドラッカーの思想の一部を端的にまとめた『ドラッカー5つの質問』から、1つ目の質問「われわれのミッションは何か」という問いについて理解します。
■ 経営理念、ミッション、ビジョンの違い
『ドラッカー5つの質問』によれば、経営理念、ミッション、ビジョンは以下のように定義されます。
(以下引用)
・経営理念とは「わが社の社会に対する根本的な考え」を言い表したもの
・ミッション(使命)は「わが社が社会で実現したいこと」を言い表したもの
・ビジョンは「わが社のミッションが実現した時の状態」を言い表したもの
「経営理念は想いであり、ミッションとは行動であり、ビジョンとは結果のことだ。」
つまり経営理念は創業者の想い、考えであり、ミッションはそれに対する実際の使命・目標、さらにビジョンは動いた結果ということです。
経営理念自体はその想いを言葉で表したものであり、その言葉通りの意味を理解しても、創業者の考えを理解したことにはなりません。その言葉をもとに、創業者が何を考え何を目指しているか想像すること、またその想いに対してどう動いていかなければならないかを社員自身が何度も繰り返し考え血肉にしていかなければなりません。
ドラッカーは、リーダーの最初の仕事はミッションを考え抜き意味を考えることだといいます。
(以下引用)
本来部下に伝えなければならないのは、「社長が言っていること」ではなく「社長が考えていること」だ。
部下としても、「上司が言ったから」という思考ではなく、「上司、社長は何を求めているか」という思考を前提とすることが重要です。
■ ミッションの浸透
ミッションやビジョンを設定すれば、それだけで社員がモチベーションを保って働き、それだけで経営が成功することはもちろん有り得ません。
(以下引用)
ミッションや戦略が完成し、浸透したとしても、メンバーに対する評価がそれに基づいていない限り、組織がマネジメントされているとはいえず、真剣に行動することを促進することができない(ドラッカー『マネジメント』)
「ただ評価されないからやらなくていい」というのは本質的ではなく、コミットは評価されずとも必ず企業と自分自身のためになります。
経済成長し欧米企業というロールモデルに追いつき、課題の解決手段をすでに豊富にもつ日本では、課題を解決するための専門知識や技術をどんなに磨いても、その課題自体を作り出さなければ変化へとつながっていきません。
ミッションやビジョンはその課題のひとつであり、そこを目指して仕事をすることは、企業と自分自身を必ず変化させます。
また、他の社員や就活生と差が出てくるところは、やはり専門知識や技術ありきではない、志や理念への徹底したコミットがあることだともいえます。
具体的な評価や数値として表に出てこずとも、コミットや熱意の程度は、必ずその人の発する言葉や佇まい、行動の差としてにじみ出ているでしょう。
参考
・ドラッカー『経営者に贈る5つの質問[第2版]』(ダイヤモンド社、2017年)
・ドラッカー『マネジメント 務め、責任、実践Ⅱ』(日経BP)